夢現物語
女房はゴクリと唾を飲んだ。緊張しているらしい。
「嘗てより、一条のお邸には、藤の方と呼ばれた女人が住んでおられました。確か、その御方は衣を残して、何処へと消えたのです。まるで、霧の如く。」
「霧の如く、ねぇ。」
「そして、その御方の姫君が残されたので御座います。その姫君は葵の姫君と呼ばれていらっしゃって、とても賢しい方でおられました。」
葵。
それを聞いた時、北の方は、やはり、藤一条の君は、この家の姫だと分かった。とても、苛苛としておる。
「その姫君も、今何処へ行かれたのやら。私共は存じません。ただし、その姫君の御目は皆紅であったので、また拝見するならば、きっと忘れないでしょうね。」
「嘗てより、一条のお邸には、藤の方と呼ばれた女人が住んでおられました。確か、その御方は衣を残して、何処へと消えたのです。まるで、霧の如く。」
「霧の如く、ねぇ。」
「そして、その御方の姫君が残されたので御座います。その姫君は葵の姫君と呼ばれていらっしゃって、とても賢しい方でおられました。」
葵。
それを聞いた時、北の方は、やはり、藤一条の君は、この家の姫だと分かった。とても、苛苛としておる。
「その姫君も、今何処へ行かれたのやら。私共は存じません。ただし、その姫君の御目は皆紅であったので、また拝見するならば、きっと忘れないでしょうね。」