夢現物語
(霧が晴れてくれれば………これは、人。誰なのか分かるの。どうして、私にはこんな試練ばかり与えられるのかしら。やはり、母様は罪を犯して天から落とされたから?私は、その娘だから?)

それを思われると、御自分の罪ではあられないのに、涙が流れてこられる。

「僕は、橘貴久と申します。」

貴久………、姫君は声にならない声で、呟かれた。

「私のことを、覚えていらっしゃいますか?」

耐えなくなられたのか、姫君もお声をかけた。

「貴方は、昔、私と知り合いでしたのよ。顔も知っていて。筝で合奏もしたことがありましてよ。まあ、貴方はその後、どうなさったか、覚えていて?」
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