夢現物語
あれから一月が経つ。
貴久は、半ば記憶を取り戻しつつあり、嬉しく思われていた。

しかし、その想い人が御自身の姉君、というのに、深く御心痛となっておられた。

(もう、覚めたくない。夢の中から、抜け出したくない。叶うはずもないけれど。)

嘗て、姫君と交換なさり貰われた常盤色の袿を抱き締めて、ずっと眠っておられた。

「若君。」

流石に遅いので、乳母がしびれを切らした従者からの言伝を預かり、参上した。

「お休みのところ、御無礼申し上げます。そろそろお時間です。出仕なさいませんと。」
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