夢現物語
「まぁ。頑張りなさい。」

姫君はそう仰ってから微笑み、去って行かれた。


「宜しいのですか。」

邸の古参女房、倭(やまと)が父君に話しかけている。
倭は、父君と藤の方(葵の姫君の両親)の仲を取り持った女房で、最も信頼されている。

「何がかい、倭。」

「姫君様で御座います。妹姫様に仕えられて…………哀れに思うのです。」

倭はかなり上流の姫君であったが、父が早世してしまい、零落して、女房に落ち着いたのである。

「自分の姿を見る様で、辛いのだな、倭は。」
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