夢現物語
葵の姫君の父君は一人、寂しくうたた寝なさっていた。

『ながらへば またこのごろや しのばれむ 憂しと見し世ぞ 今は恋しき』

最後に聞いたのは、いつだったろうか。
美しい女の声に目をお覚ましになった。

『お久しぶりですが。如何御過ごしでしすかしら。』

目の前にいたのは、美しい天女の格好をなさった方。彼の藤の上であられた。

「お久しぶりですな…………初めて貴女に御会いした日を思い出されます。あれは、いつであったか。」

天女はクスリと笑われ、ふわり、と父君のお近くに近寄られる。
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