夢現物語
『葵は、何処にいるのかしら。私の、可愛い姫は。』

父君はお答えなさらなかった。
此処に、姫君はいらっしゃらないので、答えようもなかったのだった。

姫君は、天女の御息女であられた。
この上なくお美しいのも、母たる天女の血を引き継がれたからであられる。

『此処には、居ないのですね。あの姫が、継母により、辛い思いをしていないか、心配でしたのよ。愛しい(かなしい)人よ。』

「あの姫は此処には居らぬ。辛い思いも、今は、なさっていませんよ。」

嘘である。
母君が現し世から居なくなられた時から、何度も悲しい思いはしてらっしゃる。
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