夢現物語
父君は何も言われないが、面差しは重くていらっしゃる。

「どうしたの?縁談の話は、女房が言っていたでしょう?そろそろ、彼処に文を書きなされ。待ち遠しい、と言われましてよ?」

北の方はいつになく、にこやかにご機嫌だ。

「実は、その縁談なのですが………なかったことにして頂きたいのです。母君。」

それを聞いた途端に、にこやかだった顔もかちんと固まり、持っていた扇は音を立てて床に落ちた。

「貴久、まぁ、何を言うの?あちら様はもう、楽しみになさっているのよ?それを、今更、どうやって………」

半分怒った様な、半分驚いている様な顔をしている。
< 272 / 302 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop