夢現物語
『あの娘が此の邸に参れば、どうなる事かしら。』

藤の方(藤の上)は遠く、庭の更に先をぼんやりと御覧になりながら、溜め息をつかれる。

恐ろしい程に紅い瞳が見ているものは、何か。
誰にも、解せなかった。

『考えたく、御座いませんね…………荒れる葵邸は、末、どうなりますかしら。』

藤の方は庭に降りられた。
お召し物の裾が汚れているのは、気になさらない様であった。

「藤………………」

-瓜二つだ。
姫君と藤の天女の横顔は、同じ方としか言い様のない、美しさを持っていた。
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