夢現物語
「庭に降りて、人に見られてはいけませんよ、はやく、上られて。」

藤の方は振り向かれない。
何かをお手に握り締めていた。

「何をしているのだね?」

暫くの沈黙。
少し経ち、静寂を破る様に藤の方が振り返り給う。

『嘘は、仰らないで下さいませ。葵は幸せではありませんわ。』

藤の方は池を覗かれていた。
父君は駆け寄り、それを御覧になる。

『見て…………これが、葵よ…………貴方と私の、葵よ。』

水面に映っていたのは、確かに、葵の姫君であった。
< 29 / 302 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop