夢現物語
(見つかったら………私、どうなるかしら。嗚呼、母様みたいに、消えて亡くなり、天に昇れたら。)

そして、琵琶を手に、撥を握り、外に漏れない小さな音で弾かれた。

母君に、教えられた曲で、もし、消えたい時に弾くこと、と教えられた物があった。

(貴久、ごめんあそばせ、私も其方に行くわ。だから、寂しいと、思われないでしょう?)

涙を流し、紅い御目が淡く、艶々と美しかった御髪も乱れ絡まり、彼女の御気持ちを表すようであった。

「さよなら。」

そして、姫君は琵琶を膝から下ろして、緊張から撥に入れておられた力を緩められた。
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