夢現物語
「北の方様!!?」

その頃、姫君のいらっしゃる塗籠に向かう北の方を、和泉逢鈴両方が必死に足止めしようと頑張っていたが、ついに、それも防ぎきれなかった。

「手を、離せ、無礼であろうぞ!?」

逢鈴が掴んでいた腕を、立ちはだかる和泉を振り切り、塗籠に入り込んだ。

「なんと……………!」

三人とも、そう言った。
姫君がお召になっていた衣が散らばり、琵琶と撥が転がっていた。

「葵様!?」

姫君に忠誠を誓っている和泉は顔を覆って座り込んでしまった。

(葵様は………姫様は、行ってしまわれたんだわ、貴久様が、母君様が、連れてお行きになったのね。)
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