夢現物語
姫君は、昇った。
母君と、同じく、誰にも知られずに。
そして、ただ独りで。

母君がいなくなられた後、衣が散らばり、琵琶が転がっていた。

「崇子様と貴久様とを引き離せる者は、いなかったのね。」

初めて姫君の諱を知った北の方も、二人を引き離してしまったと思った二人も、呆然と立ちほうけていた。

二人の生きられた人生は、夢の浮橋の如く、儚い。


-瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の 
 われても末に 逢はむとぞ思ふ-

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