夢現物語
「そうなのだよ、葵。我が邸では、教養のある女房は殆どいない。桜や若草に呆れて、勤め先を変えてしまうからだ。あの娘達には、呆れないものは少ないよ。」

父君は持っておられた扇を地面にとんと叩きつけていられた。

「表向きは教育係。裏向きは我が邸の総領姫。」

女房として邸にあがり、自分の正体を見抜く者はいないのか、姫君は不安でならないご様子である。

「母君の、藤の方のことは、皆、知らないのですよね。同じ紅い瞳の女がいるならば、気づかれてしまうかも知れません。勘の良い者からは。」

桜、若草は藤の方のことを存知ている。
それを、姫君はどうしようか、と思われていた。
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