夢現物語
「かねてからの、御父君のお願です。断る理由にはまいりませんよ。故に私は此処へ参ったのです。」

姫君は頭を下げたまま、動かれない。
紅い瞳を見られたくなかった。

「顔をあげなさい、藤一条。」

桜がそう申すので、渋々、ゆっくりとお顔を見せた。

(紅い瞳。)

流石に桜は頭が悪いので、藤の方を思い出すことは出来なかった。

(紅い瞳なんて、不吉ね。何でこんな女を選んだのかしら、お父様は。物好きだわ。)

若草も常の人間は思えない姫君を不満に思っていた。

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