夢現物語
二人の乳母や周りの女房、姫二人が急かすので、「そうね」と、呟かれる。

「うらうらに 照れる春日に 雲雀あがり 情悲しも 独り思へば」

一息ついて、そう仰せになり、すぐに俯かれてしまった。

「うら、うらに?」

姫君の隣に居た女房が呟いたが、意味が分からなかったようで、しょぼんとしている。

(いけない、皆、藤一条の教養を認めてしまう。それは、避けなければ。)

桜の乳母は先程からうんうん、と唸ってばかりだ。

(そうよ、藤一条は人間離れしているから、人には愛されない、ならば、恋の歌を詠ませればよいわ。堅物なのだから、今度こそ、無理に決まっているであろう。)
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