夢現物語
「藤一条。春の歌は詠まれたご様子。だけれど、やはり、歌と言えば、恋じゃなくて?教養があると示したいのならば、三つ、歌を詠んでみなさい。」

恋など、私が知る訳がなかろう、と姫君は思われたが、反面、立場が失われるのは、怖い。

「風をいたみ 岩うつ波の 己の身 砕けて物を 思ふころかな」

あと二つ。

(思い出すのよ。)

すると、父君を思い出し、また、母君の夢を思い出された。

「うたた寝に 恋しき人を 見てしより 夢てふものは 頼みそめてき」

母君をもう一度見たい、夢の中でいいから、と父君が仰ったのを思い出したのだ。
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