夢現物語
そうね、と女房も答えた。

「藤一条君は、書かれた物語や絵巻が桜様と若草様のお目に止まり、仕えるようになったのでしたよね。何ていう題名だったかしら、その物語。美しいと思ったのは覚えているけれど。」

忘れてしまったわ、と愛想笑いする女房を見て、何だかおかしく思った。

「夢現物語よ。藤の木下で美しい姫君を見つけ、そこから恋が始まる、と言う話だったわ。その姫君の名から、藤一条の君の御名が付いているの。」

「姫君?あぁ、主人公ね。何て言う名前なの?」

「藤の君、よ。」

「そう、藤の君だったわ。藤一条の君は羨ましいわね。あの絵巻、とても上手だったわ。流石上臈ね!」
< 63 / 302 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop