夢現物語
ちらりと和泉に目配せなさると、和泉は、ただ頑張ってくれ、と返す。

(私は、何の、名手でもないのに。)

言えど思えど、時すでに遅し。
姫君は、撥を恐る恐る握る手にそっと力を入れられた-


一曲、弾き終わった頃。
誰も上手とは、言わなかった。
姫君だけが、少しばかりの絶望を味わい給っただけであった。


(よく、姫様はこんなのを聞いていられるのね………私、耳がどうにかなってしまいそうだわ。流石、姫様よね。)

和泉はそう思えど、通常の顔をして座っていた。

(げっ!?)
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