夢現物語
桜と若草も正装の裳唐衣(俗に言う十二単)させられたので、渋々、姫君も正装なさった。

(やはり、似合わないわね。常に地味な物を着ていただけに。仕方ないとは言え、何故裳唐衣など………私は若くないのに。)

世間一般の姫君が考えないことを、彼女は考えていらした。

(若い人だけ着飾っていなさい………私は、奥に下がりたい………琵琶を弾かないといけないのは、分かっているのだけれども。)

宴で、姫君は琵琶を、桜、若草は筝の琴を弾くことになっていたのだ。

(本当は居たくないけれども。せめて、琵琶を弾き終わるまでは、此処にいなくては…………)

そう思い、ひしと心を抑えていらっしゃった。
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