夢現物語
「藤一条とやらの名手、ならば、お前が独りで演奏すれば良いのではないのかしら。私、恥をかくのは、嫌ですのよ。」

慣れない敬語を気取って桜が使っているのが、おかしい。

「あらず。」

いいえ、の意である。
承諾はしてはならないのだ。

「参りましょう、姫君。さぁ。」


姫君は御落涙なさっていた。
何故なら、姫君御自身は大した間違えをした訳ではないが、曲の一番大切な部分で、若草の筝の琴の弦が切れてしまったからだ。

(父君に、顔をあわせられないわ。あの娘達の腕前を上達させられなかった、能無し、と思われても仕方がないもの。)
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