夢現物語
「母様?」

明朝。
姫君がお起きになられた頃には、藤の上はもう、いらっしゃらなかった。

「ねぇ、和泉。私の母様は、何処にいらっしゃるの?」

姫君はお気に入りの女童である和泉にお問いになった。

「分かりませぬ。私共は、何も、知りませぬ。」

和泉はそう口走ると、わっと泣いてしまった。

藤の上は和泉を女童で一番可愛がっていらした。
元々、孤児になった和泉を拾ったのも藤の上であった。

「落ち着いて…………母様は、きっと、いらっしゃるわ。大丈夫よ。」
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