夢現物語
そして、父君のお顔を思い出して、北の方の脳裏には、恐ろしい仮説が浮かび上がった。

(もしかしたら、藤一条は殿(父君)の娘ではないのか。それなら、成程、この邸での待遇が良いのも納得できる。しかし、それならば、私は、姉を妹に仕えさせている、非人道的なことをしていることになってしまう。)

彼女は、どうしても、これを信じたくはなかった。

(いや、それでも、かの『落窪物語』では、妹を姉に仕えさせているではないか、ならば、非人道的と言われる心配はあまりであろう。)

落窪物語では、主人公、落窪の姫君は、異母姉妹の為に縫い物をしている。待遇で言えば、女房よりも悪いのである。その物語の北の方は姫君を「飼い殺し」にしていれば良いと言う意味合いの台詞を放っている。
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