夢現物語
しかし、どれ程待っていても、ついに藤の上がお戻りになることはなかった。


「母様………母様………」

姫君は此頃、母君である藤の上を恋しがり、お泣きになることもあった。

「姫様。絵巻でも見ませんか………そう、泣いてばかりでは、お身体に障りますよ………」

そして、お泣きになる姫君をお宥めするのは、決まって和泉の役目であった。

「なぁに?其れは…………『竹取物語』?」

姫君は和泉から手渡された絵巻を開いて、御覧になる。

暫くして、姫君は和泉を手招きし、呼ばれた。
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