夢現物語
(北の方様から頂いたのだけれど、やはり、私には似合わないわ。これは、姫様がお召になるべきよ。)

しかしながら、姫君にそれを渡してしまったら、彼女が着る物が無くなる。
北の方が「逢鈴に」とくれた物なのだから、まさに、「本末転倒」である。


その頃、和泉も支度をしていた。
美しい装束も笠も支給された物で、以後も己の物として良いと言う。

北の方は藤一条の姫君を嫌っているから、きっと装束を贈ることはしないであろう。

(もし、そうなってしまったら、畏れ多いくも、私の物を差し上げよう………姫様、何と思われるかしら。)

考えれば考える程、空しくなってきて、思わず涙が出て来た。
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