夢現物語
「藤一条の君、御文が届きました。和泉の君からです。皆様、御無事に御着きになった様に御座います。」

若く、見目麗しい女房が御簾の前に立っていた。
しかし、その頃、女が自慢に思っている黒髪は途中で途切れ、不思議なことに、髢(かつら)が付けられていた。

実は、この若女房、貴久の若君でいらっしゃる。

唐櫃に女物の装束があったのは、姉である桜が、女顔で可愛らしい貴久に着せて楽しんでいたからである。

(僕は可愛くなんか、ない。)

といつもは不貞腐れてらっしゃる貴久も、今度ばかりは、

(ああ、姉上の悪戯であった女物の装束が役に立つなんて。)

と思っていらっしゃった。
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