夢現物語
「和泉から?あら、そう。良かったわ………でも、お前はいかなかったの?折角の御参りでしょう?何処に行くかは、私、知らないけれど。さぁ、文を渡しておくれ。御簾を潜っても良い。」

しめた、と貴久は内心、とても喜ばれ、御簾の内にお入り遊ばした。

姫君は文(貴久が書かれた)を読まれ、たいそう、安心なさった。

「お前も、独りでは退屈でしょう?二人で合奏でも致しましょう。私は琵琶を弾くけれど、お前はどうするの?」

「では、筝の琴を。私の女房に、筝の琴が得意な者がいたので、弾けますよ。琵琶はまだ、あまり得意ではありませんけど。」

それは本当のことで、貴久の乳母は、筝の琴の名手だった。
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