泣き出す雨に教えてあげて【短編】
スマートフォンの画面に、水玉模様ができていく。
この涙が晴れた頃には、私は強く居るはず。
もう二度と、折れたりしないから。
『大丈夫。弱気なこと言って、ごめんね。ありがとう』
『いえいえ。もうここまで来たら、頑張るしか仕様がないんだよね』
『うん。お互い、最後まで気張ろうね』
私の送った「気張ろう」という言葉に、彼は笑っていた。
ようやくやって来た電車に、私は乗り込む。
冷房中の車内も、湿気が籠っている。
隣の市を電車が越えた頃、雨が降りだした。
それは、やがて土砂降りになっていった。
──大丈夫。
きっと晴れるのだから。
どうせ知らぬ間にでも、あっけらかんとして、晴れているはずなのだから。
『誕生日、祝ってくれてありがとう。また気晴らしにでも、連絡して。俺の気晴らしにもなるから』
『って、お互いそんな暇、無いか』
そうやって来た彼のメッセージは、また笑っていた。
まだ半年は、しばらく彼に会うことはできない。
でも、気張らなければならない理由が、また増えた。
二人、誓ったから。
『最後まで気張ろうね』
『うん。何があっても、とりあえずは気張ろう』
未来は、イメージするだけなら、なんて容易なことなのだろう。
次に彼に会うまでは必ず、強く居て、自分の思いを見失わずに居よう。
次に彼に会うとき、晴れ晴れとした顔で笑顔で、向かい合いたい。
他愛もない話をする余裕を持って、あの人と心の底から笑い合いたい。
そのためには。
そのために、たった今はこの小さな私の折り畳み傘で、凌いでみせようじゃないか。
泣き出す雨に教えてあげて
おわり。