御曹司と婚前同居、はじめます
一度意識してしまったらもう平常心でいられない。

結局デザートを食べ終えるまで鼓動は速いままだった。

家でゆっくりとワインを飲みたいという瑛真の要望を聞き入れて、早々にホテルを後にすることにした。

行きと同じように瑛真のエスコートを受けながら豪勢な絨毯の上を歩いていると、私たちの正面から見知った顔の人物が近付いてきた。


「まさかこんな所で会うとは」


表情が確認出来るくらいの距離までくると、創一郎さんは薄ら笑いを浮かべて声を掛けてきた。

こんなことってあり得る?

私たちの行動を把握して、わざと擦れ違うようにしたとしか思えないくらいの偶然だ。

瑛真は寄り添う私にだけ聞こえるくらいの音で舌打ちをした。

瑛真も舌打ちなんてするんだ。

この険悪な感じ……まだこの前のこと根に持っているのかな。

二人の不穏な空気が気になりながらも、私はそれ以上に気になることがある。

創一郎さんの隣にいる綺麗な女性の存在だ。


「……専務のお付き合いされている方ですか?」


控えめに聞くと、


「あはは、まさか」


創一郎さんの笑い声には、どこか蔑みが含まれていた。
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