御曹司と婚前同居、はじめます
「気になるなら瑛真に聞いた方が早いと思うよ」

「おい」


瑛真が低い声を出す。


「別に隠す必要ないじゃないか。それにどうせすぐバレるよ。ね? まやかさん?」

「相変わらず人が悪いわね」


女性は困ったように微笑む。

私だけ除け者にされているみたいで居心地が悪くなる。

そんな思いから瑛真の腕に絡めていた指先に力が入ってしまった。

しまった、と思ったけれど、瑛真はすぐさま腕をほどいて手を握ってきた。

驚きで隣を見上げると、ばつの悪そうな顔が私を見下ろしている。


「彼女は懇意にしてくれている会社のお嬢さんだ。……あと、以前交際していた」


……交際。

急に息がしづらくなる。


「そうなんだ」


――やだ。私、今どんな顔をしている?

誰とも顔を合わせられなくて、動揺を隠すように下を向いた。

こんなに綺麗な人と付き合っていたんだ。しかも社長令嬢って……。


「もう、瑛真さんったら、面倒でももう少し丁寧に紹介してもらえるかしら? えっと、美和さん、だったかしら?」

「はい」


どうして私の名前を知っているのかだなんて野暮な質問はしない。きっと創一郎さんから彼女へ、私の情報は筒抜けなのだと思ったから。
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