御曹司と婚前同居、はじめます
「嫌になったらいつでも俺のところへおいで」


彼と話していると、何が本当で何が嘘なのかが分からなくなる。

それに瑛真を好きな気持ちが大きくなっている分、今までよりも受けるダメージが大きい。


「瀬織専務」


不意に掛けられた声に二人揃って振り返る。

無表情の柏原さんが「何か御用ですか?」とすぐに私の横に並んだ。

助かった……。


「いえ、世間話をしていただけですよ」

「そうですか。美和様お待たせしました」

「あ、うん」


柏原さんに促されて足早に副社長室へと戻った。


「瑛真は?」

「通話中です。お話の邪魔になるので先に戻ってきました」

「そうですか」


ほっと息をつく。

そんな私を見ていた柏原さんが厳しい顔をして聞いてきた。


「専務に何か言われましたか?」


こういう時、上手くかわせない自分を情けなく思う。

笑って誤魔化していると、「美和様」と圧をかけられてしまった。

柏原さんってたまに怖いんだよなぁ。


「本当に何でもないですよ」


顔の前で手をひらひらと振っていたところへ瑛真が戻ってきた。
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