御曹司と婚前同居、はじめます
扉を開けるなり私たちを凝視して、「変わりはないか?」と聞いてくる。


相手が柏原さんでこれだ。創一郎さんと二人で話していたところを見られていたら、また一騒動になっていたかもしれない。

ここは職場だから瑛真の手を煩わせたくない。

柏原さんも告げ口をする様子はなさそうだ。


「美和に見てもらいたいものがある」


デスクに広げたのは大きな図面だった。


「これは?」

「建設予定の駅だ」


今まで見せてきてもらったものとは比べものにならないくらい複雑だった。


「どんなことでもいい。美和の意見が聞きたい」


工事の規模が大きなものから小さなものまで、瑛真はどんな仕事内容でもこうして私に意見を求めてくる。

図面はほとんど完成に近いものだから、私が意見をすることは基本的にない。それでもたまに些細な点が気になって意見するのだけど、これがとにかく恥ずかしい。

けれど瑛真は素人の言葉にすら真剣に耳を傾けてくれる。


「ここの手すりは必要なの?」


トンッ、と図面の一部を叩く。
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