御曹司と婚前同居、はじめます
瀬織建設へ一人で向かうのは初めてだ。
緊張する……。
極力人の目に留まらぬよう、ファイルを落とさないようにしっかりと抱きかかえながら早歩きでエントランスを突っ切る。気持ちだけが焦って、途中何度か躓いて転びそうになった。
副社長の部屋があるフロアへエレベーターが到着し、ファイルを「よいしょっ」と言いながら持ち直して出る。
そこへ飛び込んできた光景に頭がまっ白になって立ち止まった。
え……どうして?
瑛真の胸に顔を埋めて、ぴったりと身体をくっつけているまやかさん。彼女の背中には瑛真の手が添えられていた。
心臓が壊れそうなほど鳴っている。
まだ私の存在に気付いていない二人に静かに歩み寄った。
「瑛真」
声を掛けるのと、瑛真が私の方へと顔を動かしたのはほぼ同時だった。
その驚きで大きく見開かれた目を、私は逸らさずに見つめた。
いつまでそのままでいるつもり?
私の鋭い視線を受けて、我に返った様子の瑛真がまやかさんの肩を押したことで、やっと彼等は距離を取った。