御曹司と婚前同居、はじめます
私の声は聞こえているはずなのに、抱きついたままだなんて信じられない。わざと見せつけているんだわ。

その証拠に、私を見るまやかさんの瞳は挑発的で自信に満ちていた。

卑下されたように感じ、彼女の瞳をこれ以上見ることができなくて瑛真へと視線を戻す。


「どういうこと?」


聞いても瑛真は顔を強張らせたまま口を開かない。

私がここへやって来ることが分かっているのに、どうして?

――どうして何も言ってくれないの?


「美和」


瑛真が私へ歩み寄ろうとした時、


「瑛真さん」


まやかさんの声に、ビクッと揺れた足はそのまま動かなくなってしまった。

私よりもまやかさんを気にかけるっていうの?

ショックで心が張り裂けそうだ。


「これ」


分厚いファイルを突き出すと、「ありがとう」と言って受け取った。


「急な打ち合わせが入って、これがどうしても必要になったんだ。助かったよ」


私へのフォローの言葉は一つも出てこないのに、こんなどうでもいいことはスラスラと言えるのね。

どんどん心が冷えていく。立っているのがやっとだった。
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