御曹司と婚前同居、はじめます
壊れた脳を使って日常を送るということはとにかく物凄いエネルギーが必要になる。疲弊した脳を休ませる為にこうして眠気が襲う。

知識が増えれば現状をきちんと把握することができる。

その代わり、大切な人の死期をより身近に感じてしまうのは辛いものだ。


「どんな夢を見るの？」

「優作さんの夢を見たよ」


ふわっと花が咲いたように笑う。

おばあちゃん、本当におじいちゃんのこと大好きなんだなぁ。


「ねえ、おばあちゃん。あの家でまた私と一緒に暮らさない？」


唐突の申し出におばあちゃんは何度か瞬きをして、それから静かに首を横に振った。


「美和の気持ちは嬉しいけど、おばあちゃんはここで十分だよ」

「でも」

「それにね、あの家は思い出が沢山あり過ぎて、おばあちゃんにはちょっと刺激が強すぎるねぇ」


――ああ……そうなんだ。

頭をガツンと鈍器で殴られたかのようだった。

勝手におばあちゃんはあの家に戻りたがっていると決めつけていた。

その為に転職をしようとか、思い上がっていた自分が恥ずかしくなる。


「おばあちゃんが死んだら、あの家の処分をお願いね」

「え、ちょっと待ってよ」


取り壊すだなんて、そんなの絶対に嫌だ。


「美和」


おばあちゃんの諭すような声に胸が震えた。
< 160 / 200 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop