御曹司と婚前同居、はじめます
意識して見て見れば、袖から覗く時計も瑛真が愛用しているブランドと一緒だった。

偶然？　だとしたら趣味がとても似ている。


「創一郎さんはお酒だと何が好きですか？」

「残念だけどお酒はあまり飲めないんだ。急にどうしたんだい？　やっと俺に興味が湧いてきた？」

「いえ、特には」


創一郎さんは肩を揺らしておかしそうに笑った。

そっか。そこは似ていないのね。

彼の空気感に取り込まれてすっかり緊張感を失くしていたところで、車が会社とは違う方角へ向かい始めた。


「もうすぐだよ」


言葉通り、ほどなくして車は趣のある料亭の駐車場へと入っていく。


「ここ……？」

「美和さんは来たことない？」

「ないです」


こんな高そうなお店で二人は会っているの……？

沢山の思いがないまぜになって呼吸が安定しない。

緊張でいつもより歩く速度が落ちている私に、創一郎さんはごく自然な所作で手を差し出してきた。


「だ、大丈夫です」

「全然大丈夫そうに見えないよ？」


クスクス笑いながら私の手を取った。

不本意ながら、ほっと息をついてしまう。
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