御曹司と婚前同居、はじめます
出迎えてくれたのは着物で身を包んだ女性だった。このお店の女将さんだろうか。年の頃は私の母親とそう変わらないように見受けられる。


「瑛真が来ていると思うんだけど、同じ部屋に通してもらえないかな」

「かしこまりました。確認して参りますので、少しこちらでお待ちください」


頭を下げた女将さんが奥へと消えていくのを見届けてから首を傾げた。


「随分と親しいのですね?」

「瀬織の人間が昔からお世話になっているお店だからね」

「そうなんですか……」


それにしても、いきなり押しかけて大丈夫なの? いや、大丈夫なはずがないよね?

自分でも情けないくらいにおろおろとしているのは自覚している。そんな私を創一郎さんは物珍しげに観察している。


「なるほど。こういうところがいいのか」

「はい?」

「いや、こっちの話。あっ案内してもらえるみたいだよ」


創一郎さんの手にぐいっと引っ張られた。


「あの! もう大丈夫ですので!」

「いいから」


よくない!

振り払おうとしてもビクともしない。

これじゃあ誤解されちゃうよ……!
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