御曹司と婚前同居、はじめます
あれよあれよという間に座敷の一室に通されて、向かい合っている瑛真とまやかさんの前に突き出された。


「どういうことだ?」


瑛真は私たちを見るなり恐ろしい剣幕で立ち上がる。


「もうそろそろハッキリさせようよ」


創一郎さんは変わらず飄々としている。

まやかさんはずっと下の方を見ている。何だろうと視線を辿ったところで、私たちの手元を見ているのだと気が付いた。

最悪だわ。ここぞとばかりに糾弾してくるに違いない。


「もういい。お遊びに付き合うのはここまでだ。美和から離れろ」


地を這う声が私たちの手を引き離す。

やっと解放された手のひらは汗ばんでいた。


「瑛真さん?」


まやかさんの瞳には明らかに怒りの色が見えた。

瑛真は温度を感じさせない冷ややかな瞳でまやかさんを見返す。


「何だ」


チリッ、と火花が飛び散ったような空気が漂った。


「美和を傷付けないようにするためだったのに、結局こうして巻き込んでいる。せっかくまやかのわがままに付き合ったのに、何の意味もなかったよ」

「……酷いこと言うのね」


まやかさんの綺麗な顔がぐしゃっと苦痛に歪んだ。
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