御曹司と婚前同居、はじめます
「おまえはいつもそうだ。自分がよければそれでいいと思っているんだろう」

「別にそんなふうには思っていない」

「瀬織建設の跡取りとして産まれ、たいした苦労もしないまま甘やかされて育てられ、欲しいものは何でも手に入れてきたんだろう？　だからこんな酷いことが簡単に出来るんだよ」


創一郎さんは溜め込めていた鬱憤を晴らすかのように言い放った。

同時に、自分の中で糸が切れた音がした。


「勝手なこと言わないで。将来を約束された？　何を言っているの？　生まれながらにして将来を決められている人間の気持ちが、創一郎さんには分かるの？」


急に声を低くした私に瑛真までもが目を丸くしている。その光景を眺めながら、自制のきかない溢れ出る想いを吐き出した。


「瑛真は誰よりも努力してきたわ。やりたいことも我慢して、諦めて、親に決められたことを忠実にこなして、常に周りの期待に応えてきた。そんな自由のない人生を送ってきた人間の気持ちがあなたには分かるっていうの？」


私の剣幕に創一郎さんは黙ってしまう。
< 176 / 200 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop