御曹司と婚前同居、はじめます
番外編 * キミを渇望する
包帯が取れて自由が利くようにはなったけれど、常に首から肩にかけての重苦しい感覚が付き纏っている。
以前よりも凝りやすくなった肩をほぐすように、首をぐるりと回してから小さく息をついた。
「美和はもう瑛真くんの介助はしていないそうだね。また介護の仕事に就こうとしていると聞いたんだが、本当かね?」
先程から重箱に入った鰻を一心不乱に箸でつついていたおじさんが、俺の動きに反応して顔を上げた。
おじさんとこうして二人きりで食事をするのは、美和との再会に向けて話し合いをしていた時以来だ。
精力を付けた方がいい、というおじさんの計らいで、有名な老舗鰻店を訪れている。
お言葉に甘えて今夜は美和が音を上げるまで可愛がることにしよう。
おじさんを前にして良からぬことを考えながら、止まっていた箸を動かした。
「もうすぐ瀬織家に嫁ぐ身なのだから、あまり自由にさせるのはよくないんじゃないか?」
「おじさんがそれを言いますか?」
ふっ、と笑うと、おじさんは肩をすくめた。
「確かに美和には自由を与えてきた。でもそれは、瑛真くんと会わせる前までと決めていた」
「知っています」
だから俺はこの歳になるまで美和に接触できずにいたのだから。