御曹司と婚前同居、はじめます
手足をばたつかせても、大柄な瑛真の腕からは逃れることが出来ない。

なんとか首を回してお父さんの方を振り返れば、それはそれは嬉しそうに顔をほころばせていた。

信じられない! 瑛真もお父さんも頭おかしいよ!


「美和は柔らかいなぁ」


怒り心頭している私の耳に、呑気な声が入ってくる。

かああっと熱が込み上げた。

逃げることに必死になっていたから気づいていなかったけれど、瑛真の手はあと少しで胸に触れてしまいそうな位置にある。

ドキドキと高鳴る鼓動も、指先を伝って瑛真に届いているかもしれない。

もうっヤダ……!

沢山の感情がないまぜになって、スーツを掴んでいた手にぎゅうっと力を込めた。

すると瑛真は、


「そんなことされると理性を保つことが不可能になる」


吐息を感じられる距離で囁いた。

言葉遣いは丁寧なのに、言っている内容は滅茶苦茶だ。

そしてそんな瑛真の言動に逐一反応してしまう自分も嫌になる。

なんてイケメンの無駄遣いなの……!

恨めしい気持ちで瑛真を睨み上げれば、至近距離にある綺麗な顔に返り討ちにあってしまった。
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