御曹司と婚前同居、はじめます
 ◇


日本酒にまで手を伸ばしたおじさんに付き合っていたら、予想より遅い時間の帰宅となってしまった。

はやる気持ちで部屋の鍵を解除すると、すぐさまリビングから美和が顔を覗かせた。


「おかえりなさい」


風呂上りなのだろう。血色の良い顔がにっこりと微笑む。


「ただいま」


開いた扉からぬるい空気が流れてきた。誰かが出迎えてくれる暮らしというのは潤いがある。美和との生活は今まで知らなかった温かさを感じさせてくれる。

美和へそっとキスを落としてから頭を優しく撫でると、美和は気持ち良さそうに目を細めた。

猫みたいだな、と思う。

毛を逆立てていた頃も可愛かったが、こうして身も心も委ねてくれる姿はたまらなく愛おしい。

ぱっと離れた美和が顔をほころばせる。


「勉強も一段落したから、ワインでも飲もうかと思っていたの」


柏原から建築について少し学んだ影響で、美和は建築の仕事に興味を持つようになった。

今はパートタイムで福祉の仕事をしながら、空いた時間で建築関係の資格を習得するために勉強をしている。

また正社員で働こうとしていた美和に俺から提案したことだ。上手に導いてやらないと美和は甘えようとしないから。
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