御曹司と婚前同居、はじめます
まだ状況が把握しきれておらず、言葉がなにも出てこない。

ただ、瑛真という名前が頭の中をぐるぐると駆け巡る。


「久し振りだな、美和（みわ）」


耳触りの良い声で私の名前を呼んだ彼は、切れ長の目を優しく細めた。

最後に彼に会ったのは私が引っ越す前だから、小学三年生だったと思う。

あの頃の瑛真は幼心でも理解できるくらいに美男子だった。

そして今も――。

男性に美しいという言葉が適切なのか分からないけれど、その言葉が一番しっくりくる容姿を持った彼から逃げるように顔を背ける。

一旦落ち着こう。話をきちんと整理したい。


「……久し振り、だね。でも、ちょっと待って」


確認すべきことが沢山ありすぎて、焦りから声が微かに上擦った。


「私、おじいちゃんの知人の介護を頼まれたはずなんだけど？　え、もしかして瑛真のおじいさまの介護をするの？」


私の言葉にお父さんは一瞬キョトン、とした。


「――ああ、言っていなかったか？　その相手が瑛真くんなんだが」

「はあ！？」


私の荒々しい声がホテルのロビーに響いた。
< 2 / 200 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop