御曹司と婚前同居、はじめます
長い間、お年寄りばかりを相手にする環境に身を置いていたものだから、イケメン耐性が無さすぎていとも簡単に心を乱してしまう。

私ってばなんて残念な女なの……。

イケメンという絶大なる力に立ち向かうことが出来ないと悟った私は、もうどうにでもなれと身体から力を抜いた。

その行動を瑛真はどう受け取ったのか分からないけれど、ドアをくぐってすぐ目の前に現れた黒塗りの車の前で「ふっ」と口角を上げて吐息を洩らす。

なんだかものすごく悔しい気持ちにさせられる。

黒塗りの車のエンブレムはBMWのものだった。

しかめっ面の私を後部座席に座らせると、瑛真も当たり前のように隣に寄り添ってきた。

距離を取ろうと身体を横にずらせば、「何をしている」と逞しい腕がまた腰に回る。


「もうっ! 触り過ぎ! エロジジイか!」


私の叫びに、瑛真は「ジジイではない」と冷静に答えた。

……もう、やってられないわ。

わざと聞こえるように大きな溜め息を吐いてシートへ背を預けた。

運転席からは微かな笑い声が聞こえた気がする。

まだ何か言っている瑛真を完全に無視して、窓から見える流れゆく景色をただただ見つめていた。


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