御曹司と婚前同居、はじめます
瑛真は私を初恋だと言っていたけれど、実のところ私の初恋も瑛真だったりする。

私にとって幼少期の思い出は宝物で、幸せだった頃の記憶が消え失せないように何度も思い出しては心の拠り所にしてきた。

もう一度会いたいって何度思ったことか……。

だからこそ、瑛真の行動に納得がいかなかった。

――会いに来てくれれば良かったのに。

陰でこそこそ身元調査なんてしないで、私がひねくれる前に会いに来てくれていれば、素直に許婚という事実を受け入れられたのに。

馬鹿みたいだけれど、王子様が迎えに来てくれたって思えたはずだ。

だってそうじゃない? お遊びする時間があったのなら、いくらでもうちに足を運ぶ時間はあったはず。

可愛くない態度を取ってしまったけれど、一度は瑛真のことが好きだったわけだし、許婚と言われてもそこまで強い嫌悪感は抱かなかった。

それでも激しく反発してしまったのは、瑛真の気持ちが全然見えないからだ。

その反面、さっきのキスは優しいものだったし、自惚れかもしれないけれど愛情は感じることができたことも事実。


「でも、ただの人タラシなのかもしれないし」


声に出して、わざと自分に言い聞かせる。
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