御曹司と婚前同居、はじめます
「瑛真?」


なるべく覗かないようにと離れたところから声を掛けると、キイッとチェアが軋む音が聞こえた。

仕事をしていたのかもしれない。


「早かったな。ちゃんと温まったのか?」


出てくるなり私の頬に手を添えてくる。


「あっ、暑いくらいだよ」

「そうみたいだな。顔が真っ赤だ」


その一言で更に熱が上がる。

わざとなの? それとも素なの?


「俺も入ってくるよ。悪いが脱がせてもらえないか」

「あ、はい……」


さっきの包帯を巻く練習の時よりも何倍も緊張する。

そのせいでシャツのボタンを外す指先の震えがどうしても止まらない。


「美和は可愛いな」


瑛真はふっと笑う。

そんなこと言わないで! 余計に震えが酷くなるじゃない!

やっとのことでボタンを全て外してシャツを脱がせる。包帯をほどいてまとっていたインナーがなくなると、引き締まった身体が露わになって目のやり場に困ってしまった。

細身なのに筋肉質だ。ジムとか通っているのかな……。


「ベルトも外してくれないか」

「え!?」


瑛真は唇に微かな笑いを浮かべる。

この人、少しも恥ずかしがっていない。それどころか楽しんでいるように見える。
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