御曹司と婚前同居、はじめます
「一人で出来ない?」

「新調したばかりで革がまだ硬いから力がいるんだ」

「……分かった」


ベルトへと手を伸ばす。バックルには私でも知っているブランドのロゴが刻印されていた。

介助って、こういうことなのだと改めて思い知らされた。

今までは同性やおじいちゃん相手だったから何とも思わなかった。だからこういう事態に陥るということが、契約時に頭からすっかり抜け落ちていたんだ。

金属が擦れ合うカチャカチャという音がどうしたっていやらしく聞こえる。

ベルトをズボンから引き抜くとすぐに距離を取った。

瑛真はおかしさを堪えるようにクッと喉を鳴らす。


「ありがとう。あとは自分でやるよ」


私は返事もせずにキッチンへと逃げ込んだ。

もうっ! 無理! 恥ずかしい!

両手で顔を扇いで火照りを冷ます。

グラスを一つ手にして、いつでも自由に飲んでいいと言われたウォーターサーバーから水を注ぐ。

そうしているうちに瑛真はリビングから出て行った。

一人になり、へなへなと床に崩れ落ちる。
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