御曹司と婚前同居、はじめます
「瑛真、髪を乾かさないと」

「片手だと疲れるんだ」


困ったように眉を下げる。


「そういうことは遠慮せずに言って? それが私の仕事でしょう?」

足早にドライヤーを取ってきて瑛真の背後に回り込む。

髪を乾かされている間、瑛真はずっとおとなしくしていた。

私が人に甘えられないのと同じで、彼も人を頼ることが出来ない人なのかもしれない。

そういえば、昔も頼れるお兄ちゃんって感じだったしなぁ。


「できたよ」

「ありがとう」


お礼を言われて自然と頬が緩んだ。

やっぱり人の役に立てることは嬉しい。


「あっごめん。瑛真まだ何も飲んでいなかったよね? お水でいい?」

「ああ」


私がお水を注いでいる間、瑛真はワインセラーを開いて中を見ている。

そろりと近寄って、「凄い本数ね」と声を掛けた。

振り返った瑛真に水を手渡す。

水が通るたびに上下する艶めかしい喉仏に、縫い付けられたように目が離せなくなる。

女の私より遥かに色っぽい。


「アルコールの中でワインが一番好きなんだ」


空になったグラスを受け取りながら「私も」と相槌を打つ。
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