御曹司と婚前同居、はじめます
「美味しくないか?」

「へ?」


瑛真はどこか真剣な表情を浮かべている。


「ああ、ごめん。ちょっと考えごとしていただけ。ワインはすっごく美味しい」


スーパーで売られているワンボトル千円以下の味ではない。


「それなら良かった」

「ねえ、そんなに私に気を遣わなくていいんだよ? 恋人でもないんだし」

「別に気を遣っているわけではない。美和が喜ぶ顔が見たいだけだ」

「……そう」


また返り討ちにあってしまった。

上がった心拍数を自覚して、一人勝手に気まずくなってワインを喉へとどんどん流し込んでいく。


「夜景見れなかったな」


瑛真は静かに呟いた。


「そうだね」


湿度が高いせいで透明度が落ちた空気の中では遠くまで見渡すことができない。

でも、また明日があるし。

雷はいつの間にか止んでいた。あれだけ怖いと思っていた雷の存在を今の今まで忘れていたことに気づく。

すっかり瑛真に気を取られていたせいだ。
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