御曹司と婚前同居、はじめます
瑛真はゆっくりと左肩をかばいながら起き上がろうとする。反射的に手が出た。


「ありがとう」

「うん……」

「美和」


甘い声と丁寧な仕草で手を握られた。


「付き合おう」


真剣な眼差しが私を捕らえて縛り付ける。


「好きなんだ」


心臓が一度だけドクンッと大きく鳴った。

嬉しい、と思った。素直な感情だ。だけど――


「どうして? 許婚だからという理由で人を好きになれるはずがない。どうして瑛真は私を好きだというの?」


初恋と言っていたけれど、初恋がずっと続くなんてあり得ない。実際、彼は他の女性と付き合っている。


「単純な話、タイプだからだ」

「……は?」

「この長くてサラサラな髪も、猫目で大きな瞳も、血色のいい赤い唇も。俺の好きなところを寄せ集めたかのようなんだ」


こんなにも自分の顔を褒められることなんてそうそうない。

でも、全然心が喜んでいない。むしろ冷えていくのが分かる。


「美和?」


私の顔を覗きこもうとしてきたので、掴まれていた手を思いきり振り払った。

突然のことに驚いた顔を、「馬鹿にしないで」と睨みつける。
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