御曹司と婚前同居、はじめます
到着した場所はマンションの建設現場だった。
「美和は車で待機していてくれ」
「え、でも」
「中はそれなりに危険なんだ。美和を連れていくわけにはいかない」
「……分かった」
「すぐ戻る。何かあったら電話してくれ」
車から遠ざかっていく二人の後ろ姿を見つめながら深い溜め息を吐いた。
想像していたのと全然違う。
もっと瑛真の役に立てると思っていたのに、これじゃあお荷物でしかない。
ぼんやりと窓外を眺めていると、幹線道路を挟んだ歩道でおばあさんがうずくまっているのが見えた。
大丈夫なのかな?
急ぎ足のサラリーマン、自転車に乗った若者、何人かおばあさんの横を通り過ぎて行ったが、おばあさんの姿に足を止める者はいない。
すぐ戻ってこれば問題はないわよね。
車のエンジンを止めて鍵をかける。瑛真たちが来ていないのを一度確認してからおばあさんの元へと駆け寄った。
「どうかされましたか?」
顔を上げたおばあさんは、私を目に留めて弱々しく笑った。
白髪を綺麗にまとめ上げ、絹のような素材を使った洋服を纏っている姿から上品な雰囲気が漂っている。
顔つきも柔らかく、このおばあさんがどんな人生を歩んできたのかほんの少しだけ分かった気がした。